自然数の集合 $\mathbb{N}$ を,XORを加算とする, 体 $\textrm{F}_2 = \{0,1\}$ 上のベクトル空間と見たときに, $x_1, .., x_n \in \mathbb{N}$ が張る部分空間の基底の求め方に関する記事です. 熨斗袋さんのツイートで紹介されていた方法です:

記法など

自然数の集合 $\{0, 1, \ldots…\}$ を $\mathbb{N}$ と書く. 自然数のビットごとのXOR演算を $\oplus$ と書く. $\mathbb{N}$ を, $\oplus$ を加算とする,体 $\textrm{F}_2 = \{0, 1\}$ 上の ベクトル空間と見る. $X \subseteq \mathbb{N}$ が張る空間を $S(X)$ と書く. 自然数$a, b$ に対して,閉区間,半開区間を $[a, b]$, $[a, b)$ などと書く.

$x \in N \setminus \{0\}$ に対して, $2^t \leq x < 2^{t + 1}$ を満たす $t \in \mathbb{N}$ を $\textrm{MSB}(x)$ と書く. たとえば, $\textrm{MSB}(1) = 0$, $\textrm{MSB}(5) = 2$ である.

命題

$x_1, \ldots, x_n \in \mathbb{N}$ に対し, $y_1, \ldots, y_n \in \mathbb{N}$ を 次で定義する:

  • $z_{i, 1} := x_i$
  • $z_{i,j + 1} := \min(z_{i,j}, \;\; z_{i,j} \oplus y_j)$  $\quad (j = 1, \ldots, i - 1)$
  • $y_i := z_{i,i}$

$W := \{i \in [1, n] \mid y_i \neq 0\}$ とするとき, $Y := \{y_i \mid i \in W\}$ および $X := \{x_i \mid i \in W\}$ は, $S(\{x_1, \ldots, x_n\})$ の基底である.

また,前者に関しては,$a \in \mathbb{N}$ に対して, $c_1, \ldots, c_n \in \{0, 1\}$ を以下のように定めると, $ a = \bigoplus_{i = 1}^{n} c_i y_i$ が成り立つ.

  • $a_1 := a$
  • $a_{j + 1} := \min(a_j,\; a_j \oplus y_j)$   ($j = 1, \ldots, n$)
  • $a_{j + 1} = a_j$ のとき,$c_j = 0$, $a_{j + 1} < a_j$ のとき,$c_j = 1$.

証明

$y_i$ は,$x_i$ および $y_1, \ldots, y_{i-1}$ の一部の和であるから, $x_i$ は,$y_1, \ldots, y_i$ の一部の和である.すなわち, $\{y_1, \ldots, y_n\}$ は,$\{x_1, \ldots, x_n\}$ を生成する. したがって,$Y$ は$\{x_1, \ldots, x_n\}$ を生成する.

次に,$i, j \in W$, $i > j$ として,$t = \text{MSB}(y_j)$ とすると, $y_i$ の第$t$ビットは 0 である. なぜなら,$z_{i, j}$ の第 $t$ ビットが 0 であっても 1 であっても, 最小値を作ることから,$z_{i, j+1}$ の第 $t$ ビットは 0 になる. この後の $k >= j + 1$なる $z_{i, k}$においては,帰納法の仮定により, $y_{k-1}$ の第 $t$ ビットは 0 であるから,$z_{i, k}$ の第 $t$ ビットは 0のまま変化しない.

このことから,$\{y_i \mid i \in W\}$ は線形独立である. これらのいくつかの線形結合が 0 であるとし, その最も若い番号を $j$ とすると, 第 $\text{MSB}(y_j)$ ビットを比較して,$y_j$ の係数が 0 であることがわかる. 以下同様である.

従って,$Y$は, $S(\{x_1, \ldots, x_n\})$ の基底となる.

また,$y_i = x_i \oplus c_1 y_1 \oplus \cdots \oplus c_{i-1} y_{i-1}$ ($c_j \in \{0, 1\}$) と書けるから, $x_i = c_1 y_1 \oplus \cdots \oplus c_{i-1} y_{i-1} \oplus y_i$ である.つまり,$X$ は,基底 $Y$ から「基本変形」を繰り返して得られる集合 であるので,$X$も基底になる.(終)