趣旨

AtCoder Beginner Contest 237 (ABC237) Ex Hakata公式解説 に, Dilworth の定理を使って解ける,と書いてあるのですが, それを読んだだけでは (当然?) わからなかったので, (自分が) わかるように書こうという趣旨です.

結局,この問題を解くには,次の事実が必要であると思います (言葉は下の方で定義しています).

命題1

順序集合 $(S, <)$ の反鎖のサイズの最大値は,$|S| - m$ である. ここで $m$ は,$S$を左右に置いて,$s < t$ の時に 左の$s$と右の$t$ を辺で結んだ二部グラフ における最大マッチングのサイズである.

Dilworth の定理だけではなく,König の定理も知っていると良い感じです.

以下の記述 (定理の証明) は,Wikipedia の Dilworth’s theoremKonig’s theorem に依っています.

定義・記法

以下,順序とは,半順序のこと. 順序集合 $\mathcal{S} = (S, <)$ において,$C \subseteq S$ が鎖であるとは, $C$の任意の2要素が比較可能であること. $A \subseteq S$ が反鎖であるとは, $A$の任意の2要素が比較不能であること. $D \subseteq 2^S$が鎖分割であるとは,$D$が$S$の分割であり (つまり,$C, C’ \in D, C \neq C’ \implies C\cap C’ = \emptyset$ で,$\bigcup D = S$),$D$の要素がすべて鎖であること.

2部グラフ $(L, R, E)$ ($L$と$R$が頂点の集合,$E\subseteq L\times R$ が辺の集合) において, $e = (l, r) \in E$ に対して,$l$, $r$ をそれぞれ $e_L$, $e_R$ と書く. $M \subseteq E$ がマッチングであるとは,以下が成り立つこと:

  • $e, e’ \in M, e \neq e’ \implies e_L \neq e’_L, e_R \neq e’_R$

$C \subseteq L \cup R$ が頂点被覆であるとは, 任意の$e\in E$ に対して $e_L \in C$ または $e_R \in C$ となること.

自明な事実

補題

$A$ が反鎖,$D$ が鎖分割ならば,$|A| \leq |D|$.

証明

$D$ の要素である鎖には,$A$ の要素はたかだか1つしか入れない.(終)

補題

$M$ がマッチング,$C$ が頂点被覆ならば,$|M| \leq |C|$.

証明

$e \in M$ に対し,$e_L \in C$ または $e_R \in C$ の成り立つ方を 対応させる写像 $M \to C$ は単射である. (終)

定理たち

Dilworth の定理

$|A| = |D|$ となる反鎖$A$と鎖分割$D$が存在する. 上の補題と合わせて,このサイズが反鎖の最大サイズ,鎖分割の最小サイズである.

König の定理

$|M| = |C|$ となるマッチング$M$と頂点被覆$C$が存在する. 上の補題と合わせて,このサイズが,マッチングの最大サイズ,頂点被覆の最小サイズである.

相互証明

Dilworth の定理と König の定理の片方を仮定すると, 他方を証明することができる.

König → Dilworth

順序集合 $(S, <)$ が与えられたとする. 左右に$S$を置いて,右が大きい組合せを辺でつないだ二部グラフ,つまり, $(S\times \{0\}, S\times\{1\}, \{((s, 0), (t, 1)) \mid s < t\})$ を考える. 最大マッチング$M$と最小頂点被覆$C$を取る.König の定理より, $m = |M| = |C|$ として良い.

$A$ を,$C$ に現れない頂点の集合とする.つまり, $A = \{ s \in S \mid (s, 0) \not\in C, (s, 1) \not\in C\}$. すると,$A$は反鎖であり,$|S| - |C| \leq |A|$ である.

$S$ に,$M$ によって導かれる有向グラフ $(S, \{(s, t) \mid ((s, 0), (t, 1)) \in M\})$ を考える. $M$がマッチングなので,このグラフの頂点の入次数,出次数はたかだか1である. また,$(S, <)$ は順序集合だから,グラフにループは存在しない. したがって,入次数0の頂点から始めて,辺をたどれるだけたどって得られる 集合の全体を $D$ とすると,$D$ は,$S$ の鎖分割になり,$|D| = |S| - |M|$ である.

以上まとめて,$|D| = |S| - m \leq |A| \leq |D|$ となるから, $|A| = |D| = |S| - m$ が得られた.(終)

Dilworth → König

(この部分は,ABC237Ex には直接必要ではない)

2部グラフ $(L, R, E)$ が与えられたとする.$S = L \cup R$ として, 順序集合 $(S, E)$ を考える. 最大反鎖$A$と最小鎖分割$D$をとる. Dilworth の定理より,$|A| = |D|$ である. $D$ の要素は,単元集合であるか,辺を構成する2点であるかのいずれかである. 前者の集合を $D_1$, 後者の集合を $D_2$ とする.

$D$は鎖分割であるから,$M = D_2$はマッチングとなる. $C = S \setminus A$ とすると,$A$は反鎖であるから,$C$は頂点被覆である. $|M| = |C|$ となることを見るために,次を示す:

  • $\bigcup D_1 \subseteq A$
  • $e\in D_2$ に対し,$e_L \in A$ と $e_R \in A$ のうちちょうど一方が成り立つ

$p = |\bigcup D_1 \setminus A|$ とする. $D_2$ の要素 $e$ については,$e$ は 鎖なので, $e_L \in A$ と $e_R \in A$ の両方は成り立たないが,両方とも成り立たない ものの数を $q$ とする.すると, $|D| = |A| \leq (|D_1| - p) + (|D_2| - q) = |D| - (p + q) \leq |D|$ であるから,$p = q = 0$ でなければならない.

したがって,$|A| = |D_1| + |D_2|$ であり,$|S| = |D_1| + 2 |D_2|$ とあわせて,$|C| = |S| - |A| = |D_2| = |M|$ が得られた.(終)

König の定理の証明

二部グラフ$(L, R, E)$ の最大マッチング$M$をとる. $M_L := \{ e_L \mid e \in M \}$, $M_R := \{ e_R \mid e \in M \}$, $m := |M|$ とする.以下のように定義する.

  • $L_0 := L \setminus M_L$
  • $F_i := \{ e \in E \setminus M \mid e_L \in L_0 \}$
  • $R_i := \{ e_R \mid e \in F_i \}$
  • $G_i := \{ e \in M \mid e_R \in R_i \}$
  • $L_{i + 1} := \{ e_L \mid e \in G_i \}$
  • $C := (L \setminus \bigcup_i L_i) \cup \bigcup_i R_i$
主張1: C は頂点被覆である.

$e \in E$ を取り,$e_L \not\in C$ を 仮定し,$e_R \in C$ を言えば良い.仮定より $e_L \in L_i$ となる $i$ がとれる.

  • $e \in E \setminus M$ のときには,$e_R \in R_i \subseteq C$ である.
  • $e \in M$ のときには,定義より $i \neq 0$ である.したがって, $e’ \in G_{i-1}$ なる $e’$ がとれて,$e_L = e’_L$ である. $e, e’ \in M$ で $M$ はマッチングであるから, $e = e’$ となり,$e_R = e’R \in R{i-1} \subseteq C$ である.
主張2: $C \subseteq M_L \cup M_R$

$s \in C \cap L$ については, $C \cap L = L \setminus \bigcup_i L_i \subseteq L \setminus L_i = M_L$ から従う. $s \in C\cap R = \bigcup_i R_i$ について.$s \not\in M_R$ であると仮定する. $s \in R_i$ とすると,$l_0, r_0, l_1, \ldots, r_i = s$ なる$S$の 列が取れて,$(l_j, r_j) \in E \setminus M$, $(l_{j + 1}, r_j) \in M$ となる. ここで,$M’ \subseteq E$ を, $M’ = M \setminus \{(l_{j + 1}, r_j) \mid j = 0, \ldots i-1\} \cup \{(l_j, r_j) \mid j = 0, \ldots, i\}$ で定義すると, $M’$ はマッチングとなり,$|M’| = |M| + 1$ であるから,$M$ が最大マッチング であることに反する.したがって,$s \in M_R$ でなければならない.

主張3: $e \in M$ ならば,$e_L \not\in C$ または $e_R \not\in C$

$e\in M$ かつ $e_R \in C$ とする.$e_R \in R_i$ となる $i$ がとれる. すると,$e \in G_i$ であり,したがって,$e_L \in L_{i+1}$ である. ゆえに,$e_L \not\in C$.

主張2,3より,$C \to M$ への単射が構成できるので,$|C| \leq |M|$. 従って補題より $|C| = |M|$ である.主張1と合わせて定理が証明された.(終)

命題1の証明

König の定理 (いま証明した) を前提とすれば, 上記 König → Dilworth の証明から明らか.(終)